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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)6976号 判決

原告 (六九七六号、一五七一号事件)尾崎繁信

被告 (六九七六号事件)東京都国民健康保険団体連合会(一五七一号事件)国

代理人 大沼洋一 菊地俊寛 ほか二名

主文

一  第一、第二事件原告の各請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は第一、第二事件とも原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(第一事件について)

一  請求の趣旨

1 被告東京都国民健康保険団体連合会(以下「被告連合会」という。)は、第一事件原告(第二事件原告、以下「原告」という。)に対し、金二二二一万六五六七円及びこれに対する昭和五八年七月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告連合会の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(第二事件について)

一  請求の趣旨

1 原告と被告国との間において、原告が別紙供託目録記載(一)ないし(三)の各供託金の還付請求権を有することを確認する。

2 訴訟費用は被告国の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(第一事件について)

一  請求原因

1 訴外財団法人清風会(以下「清風会」という。)は、東京都知事より指定を受けた保険医療機関であり、被告連合会は国民健康保険法に基づき清風会に対して療養の給付に関する費用債権(以下「診療報酬等債権」という。)の支払をなす支払委託機関である。

2 清風会は、昭和五五年一二月一二日、訴外株式会社東京都民銀行(以下「都民銀行」という。)からの現在及び将来の借入金債務を担保するため、同銀行に対し、同年一〇月一日から同五八年九月末日までの診療にかかる被告連合会に対する診療報酬等債権(以下「本件診療報酬等債権」という。)を譲渡した(以下「本件第一債権譲渡」という。)。

3 清風会は、同五五年一二月一二日被告連合会に対して確定日付ある証書によつて本件第一債権譲渡の通知を行ない、右証書は同月一三日被告連合会に到達した。

4 原告は、清風会に対し、同五七年三月二六日から同年八月二五日までの間に合計金三五〇〇万円を貸し渡した。

5 都民銀行は、昭和五七年八月二六日、原告に対し、本件診療報酬等債権を譲渡した(以下「本件第二債権譲渡」という。)。

6 都民銀行は、同五七年八月二六日、被告連合会に対して確定日付ある証書によつて本件第二債権譲渡の通知を行ない、右証書は同月二七日被告連合会に到達した。

7 清風会は同五七年一〇月一日から同年一二月末日までの間国民健康保険の被保険者の診療を行ない、その結果右診療にかかる診療報酬等債権(債権額合計二二二一万六五六七円)が次のとおり現実に発生した。

(一) 昭和五七年一〇月一日から同月末日までの被告の診療に関する国民健康保険法に基づく診療報酬金七五一万九二八三円、公費負担医療費金二一六万六一〇二円、利子補給金五万五九二六円、事務取扱料及び介助手数料金二万六二四〇円

(二) 同五七年一一月一日から同月末日までの被告の診療に関する国民健康保険法に基づく診療報酬金六六九万一八〇七円、公費負担医療費金一九五万六九〇三円、利子補給金五万〇五八四円、事務取扱料及び介取手数料金二万三〇四〇円

(三) 同五七年一二月一日から同月末日までの被告の診療に関する国民健康保険法に基づく診療報酬金二六三万三二二八円、公費負担医療費金一〇五万二九二二円、利子補給金二万一〇一二円、事務取扱手数料及び介助手数料一万九五二〇円

よつて、原告は、被告連合会に対し、譲受債権金二二二一万六五六七円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和五八年七月一五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1ないし3の事実は認める。

2 同4の事実は知らない。

3 同5ないし7の事実は認める。

三  抗弁

1 被告国(立川社会保険事務所)は、昭和五七年六月一一日、次のとおり滞納処分による債権差押(以下「本件差押」という。)を行なつた。

(1) 滞納者 清風会

(2) 第三債務者 被告連合会

(3) 差押債権 清風会が被告連合会に対して有する同年一〇月以降診療分にかかる診療報酬等債権にして金四五八二万一八五七円に満つるまで(以下「本件差押債権」という。)

(4) 滞納金 同五五年一〇月分から同五七年三月分までの健康保険料、厚生年金保険料、児童手当拠出金等の滞納金合計四五八二万一八五七円

2 本件診療報酬等債権の各譲渡は、将来の長い期間の債権を対象とするものであり、原告が本件第二債権譲渡を差押債権者である被告国に対抗できるかどうか疑問があつた。従つて被告連合会は、原告、被告国のいずれが債権者であるか判定できないので、民法四九四条後段に基づき、別紙供託目録記載のとおり供託した(以下「本件供託」という。)。

四  抗弁に対する認否

1 抗弁1の事実は認める。

2 同2のうち、被告連合会によつて本件供託がなされた事実は認めるが、供託の効力を争う。

(第二事件について)

一  請求原因

1 第一事件請求原因1ないし7と同じであるから、これを引用する。

2 被告連合会は、第一事件抗弁1及び2に主張するような経緯で本件供託をした。

3 被告国は、本件差押によつて本件差押債権の取立権を有効に取得したと主張している。

よつて、原告は、被告国に対し、原告が別紙供託目録記載(一)ないし(三)の各供託金について還付請求権を有することの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1のうち、

(一) 第一事件請求原因1の事実は認める。

(二) 同2の事実は否認する。譲渡した診療報酬等債権は昭和五五年一〇月一日から翌年九月末日までの一年分のみであり、三年分ではない。

(三) 同3の事実は認める。

(四) 同4の事実は知らない。

(五) 同5の事実は否認する。本件第二債権譲渡の性質は、清風会の都民銀行に対する債務金一〇〇〇万円を原告が第三者弁済したことに基づく任意代位にほかならない。

(六) 同6の事実は認める。

(七) 同7の事実は認める。

2 請求原因2の事実は認める。

3 同3の事実は認める。

(将来約三年分の本件診療報酬債権譲渡の効力に関する被告国の主張)

将来の診療報酬等債権の譲渡の有効要件の一つとして「それほど遠い将来のものでな」いことが必要とされるところ(最高裁昭和五一年(オ)第四三五号・同五三年一二月一五日第二小法廷判決)、右の「それほど遠い将来のものでな」い期間とは、以下の理由により、具体的には一年以内の期間をいい、従つて本件においては本件第一債権譲渡は将来一年分を超えた限度で無効と解すべきである。

第一に、診療報酬等債権は、安定性を有するといつても俸給のような一個の基本的法律関係から生ずる支分的権利ではなく、診療という個々の事実を基礎にした継続的債権に過ぎない。そして、医師、医療機関といえども、保険医、医療機関の増加による競争、高額な医療設備の購入の必要性、人件費の高騰によるコスト高、病院経営者の手腕に個人差があること等から経営が悪化して倒産し、あるいはそこまでに至らなくても患者数が激減する可能性がないとは言えず、むしろ医療資格者の激増、都市への集中により、時とともにその可能性は高くなつてきている。したがつて、診療報酬等債権の安定性についても将来三年先、五年先の長期でみた場合には「債権発生の原因が確定し、その発生を確実に予測しうる」とは到底言い難い。

第二に、右債権を将来三年先、五年先にわたり譲渡することを認めるのは、経営者サイドからみれば必要な場合も存するであろうが、他方で右債権は医師、医療機関にとつてほぼ唯一かつ最大の収入源であるから右譲渡によつて得た運用資金を用いて設備投資等をしたのに患者数が思うように増加しなかつた場合には経営状態が急激に悪化するおそれがあり、他の債権者に不測の損害を与えるだけでなく、治療中の患者にも害悪を及ぼす危険があり、弊害の方が多大である。

第三に、病院等の経営の安定度を予測しうる期間的範囲は、個々的には経営規模その他で差があるとしても、一般的に言えば経営における安定度の予測は通常一会計年度単位で行なわれるのであるから、病院経営の安定度を予測できる範囲も通常将来一年間程度の範囲に限られる。

第四に、前記最高裁判決後、全国の連合会等の実務において、将来債権の譲渡を一年に限つて認めるという取扱いが定着しつつある。

第五に、本件事案は、清風会が都民銀行から従業員へのボーナス支給等の資金の融資を受けるため、担保目的で、自己にとつてほぼ唯一、最大の収入源である診療報酬等債権を三年分もの長期にわたり譲渡したというものであつて、清風会自体経済的に窮した挙句、更に自己の首を締めるかのごとき行為をなしたともいうべき事案であることに鑑みれば、近い将来における一層の経営悪化による倒産もしくは経営困難が見込まれ、前記判決がいう「債権の発生を確実に予測しうる」場合に該当しないことが明らかであるから、本件において一年分を超える将来債権譲渡を無効と解すべき十分な理由がある。

第三証拠 <略>

理由

第一第一事件について

一  請求原因について

1  請求原因1ないし3及び5ないし7項の各事実は当事者間に争いがない。

2  同4項(原告と清風会との間の消費貸借)の事実について判断するに、<証拠略>を総合すれば、原告が清風会に対し別紙消費貸借目録記載のとおり合計三〇九五万円を貸し渡したことが認められる。

二  抗弁について

1  抗弁1の事実は当事者間に争いがない。

2  抗弁2のうち、本件供託の事実は当事者間に争いがない。

そこで以上の事実に照らし、被告の主張するような債権者不確知の供託原因が存在したかどうか検討する。将来の診療報酬等債権については、診療担当者が通常の診療業務を継続し、かつその債権がそれ程遠くない将来において生ずるものであれば、特段の事情のない限り、始期と終期を特定してその権利の範囲を確定することによつてこれを有効に譲渡することができるものと解すべきであるところ(最高裁第二小法廷昭和五三年一二月一五日判決参照)、本件供託当時右の有効に譲渡することができる範囲については判例上不明確であり、実務上、学説上も明解な見解が示されていなかつたことは当裁判所に顕著である。このような事情のもとにおいて被告連合会が将来一年分を超える診療報酬等債権の譲渡の効力について疑問をもつたことは相当であり、同被告は被告国、原告のいずれが債権者であるか確知できなかつたものであり、右確知のできなかつたことに同被告に過失がなかつたというべきである。

3  したがつて、被告連合会がなした本件供託は有効であり、同被告の本件供託にかかる債務は消滅しているものというべきである。

第二第二事件について

一  請求原因について

1  第一事件請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

2  第一事件請求原因2の事実(本件第一債権譲渡)について判断するに、<証拠略>を総合すれば、昭和五五年一〇月一日から同五八年九月末日まで三年間分の本件診療報酬等債権について本件第一債権譲渡が行なわれた事実が認められる(なお<証拠略>の譲渡債権の始期及び終期の記載は後日改変されたものと推認される。)。

<証拠略>中、第一債権譲渡契約の趣旨は将来一年分のみの譲渡であつて最初の債権譲渡通知書(<証拠略>)に将来三年分を譲渡したと記載したのは不正確であつた旨の陳述録取部分は、これと矛盾する前記<証拠略>に照らすとにわかに措信し難い。

もつとも、前掲<証拠略>を総合すれば、本件第一債権譲渡の契約書五項においては「清風会は被告連合会に対し契約日より一年経過日までに確定債権の通知をすることとし、以後毎年これを行う」旨の合意がなされ、右合意に基づき、同五六年一〇月分から翌五七年九月分までの診療報酬等債権を都民銀行に譲渡した旨の同五六年一二月一六日付債権譲渡通知が清風会から被告連合会宛に郵送されていることが認められ、また<証拠略>を総合すれば、清風会は、同五七年五月分から同年七月分までの診療報酬等債権を原告に譲渡した旨の債権譲渡通知を同年四月二三日に被告連合会宛に差し出しているほか、同年一〇月分から翌年九月分までの診療報酬等債権を原告に譲渡した旨の同五七年一〇月六日付の債権譲渡通知を被告連合会宛に差し出していることが認められる。したがつて、清風会がこのように本件債権譲渡時から一年先以降の債権について自己に留保されていることを前提にするような右各債権譲渡通知を行つていることからすると、本件第一債権譲渡の対象は将来一年分のみではなかつたかと疑う余地もないではない。しかしながら、前記<証拠略>によれば、診療報酬等債権を担保とする融資を清風会から申し込まれた都民銀行ではその取扱いが分らなかつたので同銀行の担当者田中啓三が被告連合会の担当者玉井宗に問い合わせたところ、将来一年を超える譲渡の効力には疑問があるので一年毎に双方で譲渡意思を確認のうえ債権譲渡の通知をしてもらわなければ差押債権者などの第三者が現われた場合には支払に応じられない旨説明されたので、念のために一年毎の債権譲渡通知を最初の三年分の債権譲渡通知のほかに行つたと認められ、また、将来一年分を超える診療報酬等債権の譲渡が無効とされた場合には、その部分が清風会に留保されている結果になるかもしれないので清風会がその部分について原告に債権譲渡した旨の通知を念のために行つたものと認められるから、右一年毎の債権譲渡通知又は原告に対する債権譲渡通知の事実をもつて前記三年分譲渡の認定を左右するものではなく、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

3  第一事件請求原因3の事実は当事者間に争いがない。

4  第一事件請求原因4の事実についての判断は、前記第一、一2のとおりである。

5  第一事件請求原因5の事実(本件第二債権譲渡)について判断するに、<証拠略>を総合すれば、原告は昭和五七年三月ころから清風会に対して融資を行なつていてその融資金の担保として診療報酬等債権を譲渡するよう右清風会理事長桑原昂に対して要求していたこと、そこで、右桑原は原告からの新たな融資金で債務を一括弁済するから本件診療報酬等債権を原告に転譲渡して欲しい旨都民銀行に申し込み、これを同銀行が承諾したために昭和五七年八月原告、清風会、都民銀行の三者間で右のような段取りで処理する旨の了解が成立したこと、その結果原告から清風会の普通預金口座へ金一〇〇〇万円が入金されたうえ同口座から振替によつて清風会の都民銀行に対する貸金債務が弁済されたこと、そして本件診療報酬債権が都民銀行から原告へ転譲渡されてその旨の譲渡通知もなされたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、清風会の都民銀行に対する債務の弁済資金を原告が清風会に貸し付けて弁済させ、原告の清風会に対する右貸金を含む一切の債権を担保するためにいわゆる根譲渡担保権の転譲渡として本件第二債権譲渡行為が清風会の承諾のもとに行われたものと認めるのが相当である。

6  第一事件請求原因6及び7の事実はいずれも当事者間に争いがない。

7  請求原因2及び3の事実は当事者間に争いがない。

二  将来三年分の本件診療報酬等債権の有効性について

将来の診療報酬等債権の譲渡は、その債権の発生が一定額以上の安定したものであることが確実に期待されるそれほど遠くない将来の一定の範囲内のものを対象とする限り可能であることは前記第一、二2に説示したとおりである。

ところで一定額以上の安定した診療報酬等債権が確実に発生することを予定しうる場合とは、保険医療機関が通常の診療業務を継続しており、かつ将来も同様の状態で診療できる見込みがあるときに限られるものというべきである。したがつて、将来の診療報酬等債権の譲渡を可能ならしめるためには前提において右のような診療報酬等債権の安定した発生を基礎づける事情の存在を必要とするものであるから、たとえば個人病院における診療担当者の病気による保険医療機関の診療業務遂行能力の回復し難い喪失ないし著しい減少、保険医療機関の経営能力の劣悪化や経営資金の逼迫などによる倒産や経営規模の縮少による収益性の低下が見込まれる場合などには、診療報酬等債権が安定して発生することを基礎づける事情がないものと言わざるをえない。右のような診療報酬等債権発生の基礎の不安定要因は、譲渡の対象となる債権の期間の長期化に伴いますます増大するものである。また、保険医療機関の債権者が将来の診療報酬等債権を担保目的で譲り受けているような場合には、支払委託機関から支払われる毎月の診療報酬等債権をどの程度自己の被担保債権の弁済として回収していくかによつて翌月以降将来の診療業務の消長に大きな影響を及ぼすものであり、債権者が毎月の診療報酬等債権のほとんど全額を自らの被担保債権の回収に充当していくことを予定しているときには、診療業務を運営する資金の逼迫が短期間のうちに現出することは安易に予想されるところであり、このような場合にも診療報酬等債権の安定した発生は見込みえないものと言わなければならない。また、診療報酬等債権が特定の債権者によつて長期に亘つて譲渡担保として掌握されている場合には、当該保険医療機関と取引する他の債権者(医薬品納入業者、医療器材納入業者及び医学検査業者など)が信用不安からその取引を縮少し、ひいては当該保険医療機関の業務の縮少並びに診療報酬等債権の減少をもたらすことが充分に予想される。他方、診療報酬等債権が右のような状況で拘束されているような場合には、保険医療機関がより早く債務を弁済して右拘束から逃れようとしたり、債権者から診療報酬等債権の増額化を催促されるなどしその結果不必要な投薬、検査及び手術など乱診療を行う弊害も充分に予想され、国民の健康に重大な悪影響を生じさせるおそれもある。また、譲渡担保の対象となつている診療報酬等債権の終期を確知しえない他の取引上の第三者に不測の損害を与える危険性もある。以上のような諸般の事情を総合考慮すると、将来の診療報酬等債権を目的とする譲渡担保契約がなされている場合においては、その有効な譲渡の範囲は、担保設定当時の保険医療機関の経営状況、被担保債権の具体的回収予定等を考慮に入れたうえで個別的に判断されるものと解すべきである。

本件においては、<証拠略>によれば、本件第一債権譲渡を行つた昭和五五年一二月一二日当時清風会は立川社会保険事務所に支払うべき同年一〇月分の厚生年金保険料二一万三八八六円、児童拠出金一万三五六七円を納期限である同年一二月一日を経過していたのにこれを支払えずに滞納していたことが認められる。また、前記<証拠略>によれば、本件第一債権譲渡当時清風会は従業員のボーナス資金二〇〇〇万円のほか長期資金の借り換えのため更に二〇〇〇万円を都民銀行から借り入れたものであり、その際同銀行の担当者田中は清風会所有の不動産に複数の抵当権が設定されていて担保余力がなかつたことや計算書類の内容から清風会の経営は芳しくないと判断していたことが認められる。

このような本件第一債権譲渡当時における清風会の経営悪化状況等に鑑みると、本件においては、一年を超えて通常の診療業務の継続及び診療報酬等債権の安定した発生を見込むことのできる状態ではなかつたことが確実であるから、右期間を超える将来の診療報酬等債権の譲渡の効力を認める余地は存在しなかつたものというべきである。

ところで、別紙供託目録記載の供託にかかる債権は昭和五七年一〇月一日から同年一二月末日までの診療報酬等債権であり、本件第一債権譲渡の行われたときより約一年九か月以上先の債権であるから、都民銀行が本件第一債権譲渡により有効に取得する余地はなかつたものであり、したがつて原告もまた都民銀行から本件第二債権譲渡によつてこれを取得する余地がなかつたものといわなければならない。よつて、原告は右供託目録記載の供託金について還付請求権を有しないものというべきである。

第三結論

以上によれば、原告の第一、第二事件の各請求はいずれも理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鬼頭季郎 生田瑞穂 齊木教朗)

供託目録、消費貸借目録 <略>

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